🦌 ネイチャーポジティブとは? 鹿とタヌキが教えてくれた自然との関係
- かとうようこ

- 10月21日
- 読了時間: 6分
自然と人との境界が、静かに溶けはじめている。
鹿やタヌキとの出会いは、
私たちが忘れかけていた“自然との約束”を思い出させてくれました。

🏞️ 奈良公園で鹿に出会う
先日、鹿に会いたくて奈良へ出かけました。
奈良公園では、あちこちで鹿たちがのんびりと歩き回り、
観光客から鹿せんべいをもらう姿が印象的でした。
奈良公園や春日大社の周辺に生息する鹿は、「神の使い(神鹿・しんろく)」とされ、
古くから保護されてきた特別な存在です。

⛩️ 春日大社 ― 国守りの神を祀る神社
春日大社は、藤原氏の氏神を祀り、国や人々を守る神さま(国守りの神)をお祀りする神社です。
主祭神の武甕槌命・経津主命・天児屋根命・比売神はいずれも、国家や人々の守護を担う神さまとされています。
伝説によると、春日大社の創建(768年、奈良時代)に際し、
神さまが白鹿に乗って現れ、この鹿を神の使いとして尊んだことが起源といわれています。
奈良の鹿は単なる野生動物ではなく、文化や信仰の中で“神の使い”として守られてきた存在です。
私は春日大社に参拝し、境内の静けさの中で、
「日本をお守りください」と心を込めて祈ってきました。
神の使いとされる鹿たちの存在に触れ、
自然や命の尊さ、人と自然とのつながりを改めて感じるひとときでした。

🌿 奈良の鹿と人との共存
奈良では、鹿が昔から大切にされてきたため、人と共に生きています。
人のそばでのんびり過ごす姿は、奈良ならではの穏やかな風景です。
一方で、他の地域では、鹿が人前に姿を見せることはほとんどありません。
しかし近年、早朝や夜になると山から下りてきて、民家の近くまでやって来て、農作物や園芸植物を食べてしまう被害が出ています。
🏡 山から人里へ ― 鹿の変化
一昨年、父の実家で「鹿が山から下りてくるようになった」と聞いたとき、
胸の奥がざわつくような感覚がありました。
かつては明確だった“人の暮らし”と“山の世界”の境界線が、
いま、静かに崩れはじめている――そんな自然からのサインを肌で感じ、
初めて“自然の変化”を現実として受け止めました。
子どもの頃は「鹿が出た」という話など一度も聞いたことがありませんでしたが、
今では鹿が家の前までやって来て、草木を食べてしまうため、
畑を金網で囲ったり、鹿が嫌がるハーブを植えたりして対策をしているそうです。
近くのゴルフ場にも、鹿がたくさん現れるようになったと聞きました。
🦝 タヌキとの遭遇
昨年の冬、夕食の時間にふと窓の外を見ると、
外猫用に置いていたフードを、2匹のタヌキが食べに来ていました。
タヌキたちは可愛らしい見た目とは裏腹に、疥癬菌(かいせんきん)という皮膚の寄生虫を持っていることがあります。
この菌は、タヌキが体を一掻きするだけでも、周囲にばらまかれてしまうのだそうです。
タヌキ自身は免疫力があるうちは発症せずに過ごせますが、
同じ場所を猫や犬が通ると、感染して皮膚病を起こす危険があります。
2匹のタヌキはまだ子どもで、
「お母さんはどうしたのかな? 子どもたちだけで大丈夫?」と気になる反面、
お世話していた外猫への感染が心配で、複雑な気持ちになりました。
野生動物たちが身近に現れる光景は、どこか嬉しくもありますが、
同時に、人と野生動物との“距離の取り方”を改めて考えさせられる出来事でもありました。
🌲 山の動物たちが人里に降りる理由
本来、山で暮らす動物たちが人里へ降りてくるのは、人を驚かせるためでも、悪さをするためでもありません。
追い詰められ、生きるために――命がけで山を下りてきているのです。
鹿が山の草や木の根を食べつくすと、やがて山の保水力が失われ、土砂崩れの原因になるといわれます。
それでもなお、鹿たちは、山の中にもう食べものが足りないからこそ人里へ降りてきているのです。
熊が山を下りて人里で被害をもたらすようになったのも、
自然からの“最終警告”のように感じます。
私たち人間の暮らしが、どれほど自然に依存しているのか――
そのことを野生動物たちは身をもって教えてくれているのかもしれません。
🌏 共存のメッセージ
奈良の鹿たちは人のそばで生き、
山の鹿たちは人の暮らしの場に降りてきています。
タヌキも、熊も、その他の野生動物たちも同じく、
生きるために人間の暮らす空間へ現れています。
そのどれもが、私たち人間が築いてきた自然との関わり方が変わりつつあることを教えてくれているように感じます。
🌿 わたしたちにできること
里山や自然の回復に取り組む企業や団体の活動を支える方法は、私たちにも身近にあります。
たとえば、滋賀県の叶匠壽庵では、里山の果樹や自然環境を守りながら和菓子づくりを行っています。
京都府福知山市の和洋菓子ブランド「足立音衛門」は、旧校舎を活用した「里山ファクトリー」を設置し、山あいの“里山”環境を活かした菓子製造・販売の場を地域に創出しています。
私たちができることとしては、こうした企業の商品を購入したり、里山を訪れて体験することが挙げられます。
🌸 私たちができる3つのアクション
1️⃣ 商品を購入する
・里山の果樹や自然環境を守りながらつくられた製品を選ぶ
・地元特産品を購入して地域経済・自然保護に貢献
2️⃣ 里山を訪れる
・自然体験や農業体験で里山の大切さを体感する
3️⃣ 活動を広める
・SNSや口コミで情報を伝え、自然保護の輪を広げる
全国にこうしたネイチャーポジティブな企業や団体がたくさんあります。

🌱 ネイチャーポジティブな社会を考える
「ネイチャーポジティブ(Nature Positive)」とは、
人の活動による自然への負荷を減らし、自然を再生・回復させる社会を目指す考え方です。
企業や自治体だけでなく、私たち一人ひとりの行動も、ネイチャーポジティブな社会をつくる力になります。
日本では、ネイチャーポジティブな企業を増やすために「ネイチャーポジティブ宣言」を呼びかけています。
これは、企業が自然環境への取り組みを自由な形で宣言し、公式のポータルサイトに登録するものです。
🌍 ネイチャーポジティブの基本戦略
生態系の健全性の回復
自然を活用した社会課題の解決
ネイチャーポジティブ経済の実現
生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動
生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進
👉ネイチャーポジティブ宣言発出団体一覧(J-GBF公式サイト)
わたしたちも、企業や団体がどのような取り組みをしているかを知ることで、自然を守る一歩になります。
商品を選んだり、里山を訪れたり、活動を広めたりすることは、ネイチャーポジティブな社会を一緒につくることにつながるのです。
🌾 おわりに ― 声なき声に耳を傾けて
鹿やタヌキ、そして森に生きるすべての命が、「人と自然の関係を見つめ直してほしい」と語りかけています。
ネイチャーポジティブな社会とは、そんな“声なき声”に耳を傾け、共に生きる未来を選ぶこと。
それは、わたしたち一人ひとりから始まる小さな奇跡なのかもしれません。




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