🐻 クマが人里に降りてくる本当の理由 ― 駆除ではなく、共に生きるためにできること
- かとうようこ

- 10月18日
- 読了時間: 4分

今年は、全国でクマの出没や被害のニュースが相次いでいます。
住宅地やスーパーの駐車場など、人の生活圏にまで現れるケースも珍しくなくなりました。
「なぜ、クマが山を降りてくるのか?」「駆除するしかないのか?」
――その問いに、少しだけ自然の側から耳を傾けてみたいと思います。
🍂 山に食べ物がなくなっている現実
クマが人里へ姿を見せる最大の理由は、山の中で食べ物が足りていないこと。
特に秋は、ブナやミズナラなどの木の実が不作の年になると、
冬眠前に十分な栄養をとることができず、やむをえず人里に近づいてしまうのです。
その背景には――
温暖化や台風などの気候変動
森林の高齢化や間伐不足
里山の消失(人が関わらなくなった森)
といった人間の暮らしの変化が深く関係しています。
つまり、クマの出没は「野生の暴走」ではなく、
人と自然の関係が崩れたサインでもあるのです。
🌱 駆除だけでは終わらない問題
今、多くの自治体が被害防止のために「駆除」を選択しています。
しかし、それは短期的な安全を守る方法であって、
根本的な解決にはつながりません。
クマが生きられない森のままでは、
次の年にも、また次の世代にも同じことが繰り返されてしまいます。
私たちが本当に見つめるべきは、「クマが戻れる山を取り戻すこと」。
そして、それを“人の手”で再び支える方法です。
🪶 ドローンで山に「命のごはん」を届けるという発想
たとえば、農地や人里から遠く離れた山の奥、
人が簡単には入れない場所に、
ドローンで自然素材の発酵飼料を届けられたらどうでしょう。
精米所で出るぬかや野菜くずで作った、牛や鶏に与えるような発酵飼料に加え、
酒造やビールの醸造残渣(もろみや麦芽粕)、
果樹の落ち実や選果場の廃棄果などを活用し、
土に戻っても自然に分解される素材で作れば、環境を汚すこともありません。
こうした補給は、一時的な「緊急食」として、
ドングリが不作の年にクマたちの飢えをしのぐ手立てになるかもしれません。
もちろん、給餌が恒常化すれば“依存”を生むリスクがあるため、
慎重な管理とモニタリングが欠かせません。
それでも、ドローン技術やAIが進む今、
「人が自然をサポートする新しい形」として、
研究の価値は十分にあるのではないでしょうか。
実際、世界的にも似た試みが一部で検討・実施されています。
ただし、いくつかの「利点」と「課題」があります。
🌿 利点と課題
利点
短期的な飢餓回避
不作年にクマが人里に下りるのを防ぐ効果。
環境負荷の少ない素材
ぬか・野菜くず・発酵飼料は土壌分解性が高く、野生動物にも比較的安全。
ドローン技術の応用
立ち入り困難な山中でも正確に散布可能。
課題・リスク
生態系バランスへの影響
熊だけが恩恵を受けると、他の大型獣も集まり、植物や下草に影響。
給餌依存のリスク
人が餌をくれることを学習すると野生性を失い、人里への警戒心も低下。
疾病・腐敗リスク
適切に管理しないとカビや雑菌の繁殖が懸念される。
運用コスト
広範囲の散布にはGPSやバッテリー制限など技術的ハードルが高く、
自治体や研究機関との連携が必須。
🌱 実際に近い取り組みの例
長野県や岐阜県では、クマの餌となるブナ・ミズナラ・クリなどを植樹する「森づくりプロジェクト」を実施。10〜20年単位での生態回復を目指している。
カナダやアメリカの一部地域では、不作年に一時的な「バックカントリー給餌」が実施されたことがありますが、依存リスクが確認され、現在は慎重姿勢。
日本でも研究段階で、森林の「餌資源地図(ナッツマップ)」をAIで作成し、どの地域がクマの餌不足に陥りやすいかを可視化する取り組みが始まっています。
🌳 真の解決は「森の回復」から
とはいえ、根本にあるのは「森の再生」です。
ブナやミズナラなど、クマの食べ物となる木を植え、
下草を保つように間伐を行い、
人が再び“森と関わる”ことで、自然は少しずつ息を吹き返します。
「人が山を整えること」――それは支配ではなく、共生への手入れ。
山が豊かになれば、クマは山に留まり、人との境界線も自然に戻っていくでしょう。
🤝 共生という未来へ
人とクマの距離が近づいている今こそ、
私たちの「優しさ」をどう生かすかが問われています。
駆除ではなく、恐怖ではなく、
自然の声に耳を澄ます勇気を持てるかどうか。
クマが山に帰れる森を整えることは、
実は、人が人らしく暮らすための森を取り戻すことでもあります。
🌿 “共に生きる”という選択。
それは、野生動物の問題ではなく、
この地球で生きる私たち全員へのメッセージなのかもしれません。



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