2016年3月、マリーちゃんがうちにごはんを食べに来るようになって1年が経っていました。彼女は毎日、サンルームの外で待っていました。しかし、冷たいタイルの上では体が冷えると思い、冬の間は衣装ケースを使ってシェルターを作り、中で暖かく待機できるようにしていました。
毎朝、サンルームからマリーちゃんがいるのを確認してごはんを用意するのが、私の日課になっていました。そんなある日、彼女のお腹が膨らんでいることに気がつきました。
それから日が経つごとに、マリーちゃんのお腹はどんどん大きくなっていきました。小柄な彼女のお腹が横にせり出してくる様子に、私は一体何匹の仔猫を宿しているのだろうと心配になるほどでした。
そしてある朝のこと。いつものようにごはんを用意し、サンルーム越しに外をのぞくと、マリーちゃんの姿がありませんでした。名前を呼んでも来る気配はなく、昼近くになっても彼女は現れませんでした。
その日は、小雨が降っていました。
「マリーちゃん、どうしたのかな……大丈夫かな……」と、午前中何度も外に目をやりながら気にかかり、家事にも手がつきませんでした。
お昼ごはんを買いに近所のスーパーに行こうと玄関ドアを開けた時のことです。
ドアの前で、遠慮がちにマリーちゃんが待っていました。
当時のマリーちゃんは、人目につかない裏庭のサンルーム前にしか姿を現さなかったので、玄関先にいるのはとても珍しいことでした。「どうしたの?」と声をかけると、彼女はその場にうずくまり、じっとしていました。
私は落ち着いてアニマルコミュニケーションを試み、彼女の気持ちを聞いてみました。すると、マリーちゃんのオーラがオレンジに輝き、「おなかの赤ちゃんを守りたい、安全に産みたい」という強い気持ちが伝わってきたのです。
その時、1年前の「妊娠してるかも?」と思った時のことが頭をよぎりました。あの時、早産や何らかの理由で赤ちゃんを失ってしまったのではないか。うちに来た時には、すでに赤ちゃんを失った後だったのではないか――そんな考えが浮かびました。
そして、1年間、彼女は私を信頼できる人間かどうか観察していたのではないか……。
どちらにせよ、目の前で大きなお腹を抱えて頼ってきているマリーちゃんを、放っておくわけにはいきません。
「わかった、ついてきて」と伝えると、玄関を出て家のわき道を通り、裏庭のサンルーム前まで歩いていきました。マリーちゃんは私の後を静かについてきます。
外からサンルームのドアを開け、「ここに入ったら赤ちゃんを産むまで外には出られないよ。子どもたちは一生大事にしてくれる人を探して家族に迎えてもらうよ」と伝えました。すると、マリーちゃんは迷うことなくサンルームに入りました。
室内に置いてあったベンチに座ると、マリーちゃんも隣に座り、その時、初めて背中を撫でさせてくれました。(そして、撫でさせてくれたのはこの1度きりでした。)
それまで一定の距離を保ち、決して触れさせなかった彼女が、自ら近づき、この場所を選んだことに、私は彼女の強い意志を感じました。
すぐに布製のケージに段ボールを入れ、ペット用ベッドを入れて、ケージの上から電気毛布と毛布を掛けて暖かい産箱を用意し、隣にトイレを設置して出産準備を整えました。
この日から赤ちゃんが生まれるまでの10日間、マリーちゃんは一度も外に出たいそぶりを見せませんでした。
そしてもう一つ、不思議なことがありました。数日後、全身グレーの毛色をしたオス猫がサンルームの外に現れ、マリーちゃんをじっと見ていました。
それまで一度も見たことがない猫で、それ以来姿を見かけることはありませんでしたが、彼を見た瞬間、直感的に「あっ、お腹の赤ちゃんのお父さんだ」と思いました。
マリーちゃんが自分の居場所を彼に伝えていたのかもしれません。
「さすがアニマルコミュニケーションの達人だな」と、ほのぼのとした気持ちになった出来事でした。
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